実は英語が下手?外交官たちの証言からみる吉田茂の英語力
ジョセフ・グルー
総理大臣としての印象が強い吉田茂ですが、もともとは外交官を務めていました。
吉田は11歳の頃に「耕余義塾」(こうよぎじゅく)という私立学校に入学しており、そこで外交に欠かせない英語を学んでいます。
一見すると英語が得意そうな経歴に思えますね。
しかし吉田には「英語が得意ではなかった」という証言が多く残されているのです。
たいしたレベルじゃない?吉田の英語力を否定する証言
吉田の親しかった人物のなかに、ジョセフ・グルーという人がいます。
彼はアメリカの外交官であり、駐日大使も務めた人物です。
吉田の英語力についてグルーの語った言葉が、ハーバード大学所蔵の「グルー文書」に残されていました。
それによれば「吉田の英語の理解力と表現力はとても劣っている」「何が言いたいのか分からないことがたまにある」とされています。
つまり聞くのも話すのも、あまり優れていなかったと評されているわけです。
くわえて、日本人外交官からも、吉田の英語を酷評する声が上がっていました。
たとえば吉田の側近だった加瀬俊一は、吉田の英語について「感心するほどのものではなかった」としています。
また、諸外国で駐在大使を歴任した三宅喜次郎は「会話はいいが、正式な演説となると貧弱だった」との発言を残しました。
アメリカ人であるグルーと親しく付き合っていたことや、三宅の「会話はいい」という証言から、吉田は日常会話程度の英語力は身につけていたと思われます。
しかし演説などの改まった場で的確に意思や意見を伝えられるほど、深く英語を理解していたわけではなかったようです。
みごとな英語だった?吉田の英語力を肯定する証言
英語は不得意だったとする意見の多い吉田ですが、いっぽうで彼の英語力を肯定する証言も散見されます。
吉田の英語を称賛したのは、イギリス大使館で外交官(書記官)を務めていたセシル・ドーマーです。
吉田とドーマーは、初めて顔を合わせた際、長時間に渡って外交の話をしたといいます。
ドーマーはこの会話の内容をイギリス本国に伝えていますが、その報告の中で吉田の英語力にも触れました。
彼は吉田を「実に見事な英語を話す」「彼ほどざっくばらんに自分の考えを述べる日本人には会ったことがない」と絶賛しています。
ドーマーの意見は「英語が不得意だった」とする複数の証言と矛盾しますよね。
これは彼がイギリス人であることが原因と考えられます。
吉田は、イギリスのロンドンに赴任した経歴があるため、いわゆる「イギリス英語」を話しました。
イギリス大使館員のドーマーが、イギリス訛りの英語を聞きやすく感じるのは当たり前です。
逆にいえば、アメリカ訛りの英語を学んだ日本人やアメリカ人が、吉田の英語を聞き取りづらいと思うのも当然だったでしょう。
吉田が英語下手といわれた一因は、こうした英語の訛りにあったのかもしれません。
吉田の英語は「上手くなかった」とする意見が多いですが、これはイギリス英語とアメリカ英語の違いが原因とも考えられそうです。
しかしやはり、下手と証言している外交官たちのほうが多い以上、少なくとも吉田は英語が堪能ではなかったといえます。